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社労士による時事ネタコラム

奈良の社会保険労務士事務所「よしだ経営労務管理事務所」の代表です。 このブログは、社会保険労務士および集客コンサルタントの立場から、日々のニュースで取り上げられた労働、雇用問題や法律についての解説をしたり、一般人としての立場から駄文を書いたりするコラムです。

誰が「労働者」を殺すのか。裁量労働制による過労死が労災認定される。

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「裁量労働制」で働き、心疾患で亡くなった男性について、東京都の労働基準監督署が過労死として労災認定したことが分かりました。

「裁量労働制」とは、業務遂行の手段や時間配分について具体的な指示をすることが困難な一部の専門職において、実際の労働時間と関係なく、事前に労使協定により定めた一定の時間働いたものとみなす制度です。

今回亡くなられた47歳の男性が従事していた証券アナリストも、この専門職に該当します。

 

 

過労死が労災認定される基準

さて、過度な労働による脳・心疾患の労災認定は、厚生労働省が認定基準を整備したことで、昔と比べると認められやすくはなりましたが、それでも、まだまだハードルが高いのも事実です。

一つの基準として、

「発症前1ヶ月ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月あたり、おおむね45時間を超えて、残業時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が強まる」

発症前1ヶ月間におおむね100時間、または発症前2ヶ月ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたり、おおむね80時間を超える残業があった場合、業務と発症の関連性が強い

とした、残業時間の認定目安があります。

出退社時間がきちんと記録されたタイムカードがあり、月の残業時間がこの基準を超えていたということが示せれば、労災認定されやすいのですが、記録に残っていないサービス残業が続いていたり、今回のケースのように「裁量労働制」ということで、会社側が正確な労働時間を把握していないと主張した場合、労災の認定を得るのは非常に困難になります。

 

裁量労働制の場合、過労による疾患の労災認定は非常に困難

今回のケースですと、「裁量労働制」により、何時間働いても月の残業時間は40時間とみなすと決められていました。(ただし、夜22時以降の深夜残業と、休日出勤については、裁量労働制の場合、みなし残業時間に含めることはできません。)

会社に労働時間を記録したタイムカード等がなかったために、正確な残業時間がわからず、当初は労災認定は困難とみられていました。

しかし遺族側は執念で、リポートの発信記録や同僚の証言などをもとに男性の労働実態を調べ上げました。遺族によると、男性は午前3時ごろに起床して海外市場の動向を分析。午前6時ごろに出社し、朝一番の顧客向けリポートの発信記録はいずれも午前6時40分ごろ。早朝出勤しているにもかかわらず「他の従業員より早く帰るな」と注意されたり、高熱でも出勤を命じられたりするなど本人の裁量は実質的になかったといいます。

この遺族の調査結果により、発症前1カ月の実質的な残業を133時間、発症前2~6カ月の実質的な平均残業時間を108時間と判断し、三田労働基準監督署はついに労災に認定しました。まさに遺族側の執念の勝利です。

今回のケースのように、「裁量労働制」で働いている労働者の場合、タイムカードなどによる労働時間の把握がされていないケースが多く見られます。しかしこのような場合「裁量労働制」で働く労働者が脳・心疾患に倒れた場合に労災認定されるのは非常に困難になります。

実際、過去の例を見ても裁量労働制で、労災が認められたケースは数えるほどしかありません。

また「裁量労働制」とは名ばかりで、実際は残業代削減の口実に利用されているだけで、労働者に自由な裁量の余地がないケースも多々あります。

 

政府の労働法改正に一石を投じるか

現在、政府は裁量労働制の対象業種を一部の営業職にまで拡大する方針を打ち出しています。

私はこのコラムでも何度も言っていますが、今後ますます加速する少子高齢化による労働力の減少を補うために、労働者一人当たりの生産性を上げる工夫を行うことは、とても重要なことだと思っています。

その目的を達成するために、裁量労働制の拡大や、ホワイトカラーエグゼンプションの導入もやむを得ないと思っています。

ただ、一番気をつけなければならないのは、こういった制度が、いたずらに残業代削減などの隠れ蓑として利用され、本来の目的を失ってしまわないようにすることです。

・どうすれば生産性をあげることができるか

・どうすれば労働時間を短くすることができるか

この両方を達成出来るように、新制度を検討することが重要なのですが、どうも、労働時間を短くするという目標が置いてきぼりになっているような気がします。

このまま、労働時間の規制などを厳しく定めず新制度を導入しても、世間で批判されているように、さらに多くの過労死による悲劇を生み出してしまうのではないでしょうか。

 

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