芸能人の労働組合を作ることは可能か?意外と複雑な「労働者」の定義
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芸能界の特殊な労働環境が話題となっている。
そんな中、お笑い芸人のたむらけんじさんが、松本人志さんから芸能タレントの労働組合の新設に動くよう依頼を受けていることを明らかにした。
労働組合と言えば、一人一人は弱い立場である労働者同士が団結して、使用者と対等の立場に立ち、使用者に対して労働条件の改善を求めるための組織であり、憲法第28条において、その結成や行動が労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)として保証されている。
これは普通の会社であれば考え方は簡単で、ヒラの社員達が集まって組合を作り、
「給料をもっと増やせー!休みをもっとよこせー!社員食堂の飯をもっと充実させろー!」
と会社に要求するわけだ。
意外と複雑な「労働者」の定義
さて、ここで問題となるのが、果たして芸能人がこの「労働者」にあたるのかどうかという点である。
多くのタレントは、事務所と雇用契約ではなくマネジメント契約という名の業務委託契約を結んでいる。
つまり、タレントそのものはフリーランスの個人事業主であり、事務所から仕事を委託されているという形である。
ここで、労働基準法における「労働者」とは以下のように定義される。
「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
ということは、タレントのほとんどが、労働基準法においては「労働者」とはみなされないのである。
一方、憲法第28条の労働組合法において「労働者」は以下のように定義されている。
「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。
この微妙な違いがお分かりだろうか?
労働組合法における「労働者」は、労働基準法における「労働者」よりも、もう少し広い範囲を指すのである。
例えば、労働基準法において失業者は「労働者」とはみなされないが、 労働組合法においては「労働者」とみなされる。
では、個人事業主はどうだろう。
これは実は非常に微妙なラインであるが、過去の最高裁の判例において、個人事業主を労働組合法における「労働者」と認めた判決もある。
判例を読み解くと、契約内容よりも実際の状況が重視されていることがわかる。つまり契約上は請負契約であっても、実際の働き方が雇われ労働者と変わらない場合は、それは「労働者」であるとみなされるのだ。
芸能人は「労働者」か?
話を芸能人に戻すと、マネージャーが持ってきた仕事に対して、嫌な仕事はやらないと言える立場にあるかどうか、などがポイントになるであろう。
とすれば、松本人志さんのような、ある程度仕事を選り好み出来る大物芸能人は「労働者」とはみなされない可能性が高い。
一方、若手タレントなど、事務所に対して事実上、自分の意見を言えない状況にある人などは「労働者」とみなされ、タレントの労働組合に所属する資格があると言える。
結構ある。特殊な職業の労働組合
また、日本プロ野球選手会などは、選手自体はあくまでも個人事業主であるが、労働組合法上の「労働者」としての意味合いが強いということで、正式に労働組合として登録されている。
さて、タレントの労働組合であるが、実はすでに似たようなもので、日本俳優連合という組織がある。これは、テレビ局や制作者と対等に契約を結びにくい俳優の柔い立場を解消しようと結成された組合であり、前述の労働組合と同じ性格のものである。
西田敏行さんが現理事長を務めているが、はて、西田さんのような大物芸能人は、今までの理論でいうと「労働者」とはみなされないように思うであろう。
そうなのである。実はこの日本俳優連合は中小企業等協同組合法という、労働組合法とはまた別の、個人事業主同士が共同して事業に取り組むための法律を基にして成立しているのだ。
全芸能人を包括する組合の結成は前途多難
ここで話を芸能タレントの労働組合に戻してみる。
もし、このような組織を作るのであれば、全タレントが所属しないと意味はない。
なぜなら、芸能事務所としては、厄介な組合所属タレントを使うぐらいなら、組合に所属していないタレントをなるべく使おうとするだろうからだ。そればかりか組合所属タレントは仕事を干されるリスクも出てくるだろう。
ただ、タレントの中には超大物もいれば、駆け出しのものもいる。
これらすべてを包括的にまとめ上げるのは並大抵のことではない。
しかしながら、もし結成が現実のものとなったら、それは日本の芸能界を根本から変革する、まさに革命的な出来事である。
たむらけんじさん、がんばってくだちゃ〜(絶対、言うと思った)
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