社労士による時事ネタコラム

奈良の社会保険労務士事務所「よしだ経営労務管理事務所」の代表です。 このブログは、社会保険労務士および集客コンサルタントの立場から、日々のニュースで取り上げられた労働、雇用問題や法律についての解説をしたり、一般人としての立場から駄文を書いたりするコラムです。

労災受給中の解雇は無効?最高裁が下した『真っ当な判決』

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労災認定を受けて休職・療養中に解雇されたのは不当だとして、専修大学の元職員の男性が解雇の無効を求めた訴訟の上告審判決で最高裁は8日、

「国から労災保険の支給を受けている場合でも、打切補償を支払えば解雇できる」

とする初判断を下しました。

元職員の男性は、2002年頃から首や腕に痛みが生じて頸肩腕症候群と診断され、07年に労災認定を受け、休職しました。専修大は11年に打切補償約1,630万円を支払って男性を解雇しましたが、男性側が地位確認を求めて提訴したもの。

 

 

打切補償による解雇とは?

この判決、まずどういうことなのかと言いますと、労働基準法の81条において

【業務上の傷病による療養のために休業している労働者が、療養後3年を経過しても傷病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1,200日分の打切補償を行えば、労働者を解雇出来る】

と規定されています。

打切補償とは、言葉は悪いですが、手切れ金のようなものですね。

 

ん?法律的にも、打切補償を支払えば解雇出来るって規定されているんなら、専修大には何の落ち度もないんじゃないの?

と思ってしまいますが、そうでもないんですね。

この法律の条文をよく読むと、同法75条において

【労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の負担をしなければならない。】

と規定されているんです。

そうです。今回の男性の場合、療養費の負担は専修大が直接支払っていたのではなく、労災保険として国から支給されていたわけです。

だから、厳密に法律に照らし合わせると、

「使用者が療養費を負担していないのに、打切補償を払ったからといって解雇するのは違法だ!」

として、訴訟になり、また実際に東京地方裁判所の判決においても、「解雇は無効」という判決が下されました。

 

空文化した打切補償の規定

この判決が出た時は、社労士の間でも

「じゃあ、打切補償なんて、規定があるだけで実際には使えないじゃん」

と話題になりました。

どういうことかというと、労働者を1人でも雇うと、その使用者は労災保険に加入しなければなりません。これは強制義務です。ただし、労災に加入して保険料をきちんと納めておけば、万一、従業員が業務上負傷したり、疾病にかかったりした場合、本当ならば使用者が負担しなければならない療養補償や休業補償を、国が代わりに支払って上げるよー、となっているわけです。

また、労働基準法の第84条においても

【労働基準法に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保健法に基づいて労働基準法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れる】

と規定されています。

だから、労災認定された労働者に対して、使用者が直接、補償金を支払うということは一般的にはありえないのです。にもかかわらず、今回の訴訟について一審の東京地裁の判決でも、二審の東京高裁の判決でも、

「使用者が補償を支払っていないので、解雇は無効」

と判決を下されたわけですから、

「じゃあ、打切補償なんて現実的には使えっこないじゃん!!」

ってなったわけですね。

 

弁護団の弁護士の方は

「この最高裁判決では、どんな経営者も労災や職業病で療養中の人に『カネを払うから辞めてくれ』と言えるようになってしまう」

と批判されているとのことです。

病気が治れば、また元の場所で働きたいという男性の切実な願いもわかりますが、法律にきちんと明記されている使用者の権利が、実際には全く行使出来ないというのも、フェアではありません。

個人的には、最高裁でやっと法律の内容を正しくとらえた『真っ当な判決』が下されたと考えます。

 

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