社労士による時事ネタコラム

奈良の社会保険労務士事務所「よしだ経営労務管理事務所」の代表です。 このブログは、社会保険労務士および集客コンサルタントの立場から、日々のニュースで取り上げられた労働、雇用問題や法律についての解説をしたり、一般人としての立場から駄文を書いたりするコラムです。

【働き方改革】賛成派も反対派も本質を理解していない?

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今朝の日経新聞に、労働政策研究・研修機構(略称JILPT:労働に関する総合的な調査研究等を行う独立行政法人)の主席統括研究員である濱口桂一郎氏のコラムが載っていました。

コラムの内容は、現在政府が取り組んでいるホワイトカラーエグゼンプションの導入、などに代表される働き方改革について、支持する側も反対する側も本質を理解していないとして、解雇や労働時間についての認識に誤解があるとしたものです。

まず最大の誤解が、解雇「規制」である。多くの人々が労働契約法第16条が解雇を規制していると誤解し、これが諸悪の根源だという主張もある。しかしこれは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は権利濫用(らんよう)として無効だと定めているだけである。

 権利自体は行使するのが当たり前で、例外として無茶(むちゃ)な権利濫用を無効としているだけだ。その権利濫用という例外が、現実には極大化している。なぜなら裁判に持ち込まれる事案ではメンバーシップ型正社員のケースが圧倒的に多いためである。

 彼らは職務も労働時間も勤務地も原則無限定だから、会社側には社内で配転をする権利があるし、労働者側にはそれを受け入れる義務がある。残業や配転を拒否した労働者は懲戒解雇してよいと、日本の最高裁はお墨付きを出している。そうであるなら、たまたまその仕事がなくなったからといって配転の努力もせずに整理解雇することは認められまい。解雇は企業の外から規制されているのではない。企業自らがその人事権によって規制しているのである。

 日本より欧州の方が整理解雇が容易といわれる。事実としてはその通りだが、法律自体は実体的にも手続き的にも、欧州の方が非常に事細かに規制をしている。欧州ではそもそも労働契約で仕事と場所が決まっており、会社側には配転を命ずる権利がないからである。権利がないのに、いざというときにやれと命ずることはできない。逆に日本は会社にその権利があるから、いざというときにはその権利を行使しろということになる。

ここで濱口先生がいうメンバーシップ型正社員とは、いわゆる従来の日本型の正社員のことを指し、人事異動や転勤等の規制が労働契約等でなされていない社員です。

これに対して、地域限定正社員などのように、職務や勤務場所を限定した社員をジョブ型正社員と呼びます。

つまりこの一文で濱口先生は、

「日本は労働契約法のせいで社員をクビにするのが難しいとか言われてっけど、日本の場合、従業員の配置転換や人事異動も会社の裁量で自由にやっていいことになってるんだから、まずそれをやって、それが嫌だっていう社員はガンガン首にすりゃいいんだよ。外国なんかより、よっぽど社員の首切りやすいじゃん!」

っておっしゃっているわけです。

おそらく、文章の文字数制限もあり、細かな点は省いて重要な部分だけを述べられたのだと思いますが、これだけでは少々誤解を招きますね。

 

残業を拒否するとクビになる?

まず、残業命令を拒否した社員をクビに出来るか?という点ですが、結論から言うと

「クビに出来る」

ということになります。意外にお思いかもしれませんが、最高裁での判例が出ています。

ただし、きちんと36協定が労使間で締結されていることが条件となります。

36協定とは残業時間や休日労働などについての取り決めを、会社と従業員の間で結んだものです。

一方、この36協定が締結されていない場合は、いかなる残業も違法となります。

しかしながら、中小零細企業などで、我々のような社労士が顧問に入っていない会社だと、この36協定の存在すら知らないところも多いですね。

また、36協定を締結していても、その代表者の選出に不備があるなど、協定が有効に機能していないと判断され、懲戒解雇が無効とされた判例もあります。

なお、いくら36協定を締結しているからといって、本人や子供の体調が悪く、定時退社を訴える社員に残業を強いたりするなどの行為は、権利濫用だとされる場合もあります。

また、人事異動や配置転換を拒んだ社員をクビに出来るか?についても

「クビに出来る」

ということになっています。ただし、その配置転換や人事異動が、不当な動機や目的に基づいたものであったり、業務上の必要性があっても、従業員が被る不利益が非常に大きい場合は権利濫用として、無効とされる場合もあります。

 

日本は時間無制限で働かせ放題?

次に濱口先生は日本の労働時間について、

「日本は労働時間の規制が厳しいとも言われてっけど、実際は無制限で働かせ放題じゃん!」

と述べています。

労働時間についても非常に多くの人々が誤解をしている。過去20年、日本の労働時間規制は極めて厳しいという誤った認識の下に、それをいかに緩和するか、という政策がとられてきた。しかし、日本では過半数組合または過半数代表者との労使協定、いわゆる三六協定さえあれば、事実上無限定の時間外・休日労働が許される。

でも、これはちょっと乱暴ですね。36協定で認められる残業時間の上限は通常一ヶ月45時間までとされています。しかし確かに、特別条項というものを付ければ例外的に、1年の半分を超えない範囲で、この45時間という上限を超えて働かせることが可能となっています。

なんと、この特別条項を付けた場合の残業時間の上限は、明確に規定されていないんです。

ですので、濱口先生が書いているとおり、特別条項の適用期間であれば、事実上無限定で残業させることが可能とも言えます。(もちろん、「残業時間は出来る限り短くするように」という規定はありますが、あくまで努力規定です。)

 

問題の本質は残業代の有無ではない!

まあ、一つ目の、欧米より日本の方が従業員をクビにしやすいという先生の主張については、個人的には微妙に同意しかねますが、このコラムの最後で先生が述べられている主張については、まったくその通りだと思いますね。

「残業代ゼロ」を巡り緩和派と反対派で熾烈(しれつ)な議論がされてきたが、肝心の労働時間規制はどちらからも放置されてきた。いま必要なのは、健康確保のためのセーフティーネット(安全網)として、在社時間の上限規制や、終業時間と翌日の始業時間に一定の間隔を確保する勤務間インターバル規制を導入することではなかろうか。 

濱口先生曰く、

「残業代が出る、出ねーについてお前ら熱くバトルしてっけど、本当に重要なのは労働時間がどうすれば短くなるかっていう議論じゃねーの?」

はい、おっしゃる通りです。

 

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